| 温水の効用 | 北海道大学名誉教授、医学博士 阿岸 祐幸 先生 |
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| ・温泉とはどんなものか わが国には、温泉の源泉数は、27,041もあり、温泉地は、3,102箇所ある(平成15年)という温泉天国です。 温泉とは、「地中から湧き出る温水、鉱水(ミネラルウォーター)やガスで、 泉源での温度が25℃以上あるか、鉄とか炭酸ガスなど特定の19種類の物質のどれか1つでも決められた値以上含まれているもの」と決めせれています。 温泉はあくまでも地中から湧き出るものですから、温めた水道水を細かく砕いた石などに通した「人口温泉」というものは、正しい温泉ではありません。 ![]() ・温泉の種類と効能 温泉のうち、症状や病気に効果が期待できるものを「療養泉」といい、その主成分から9種類に分けられています。表1に代表的な泉質の名と主な体への作用を示しています。 ・天然温泉の効果は時間が経つと劣化する(老化現象) 地下深く、高温、高圧の場所でできた温泉水は、地表に湧き出る途端に温度や圧力が急に低下しますし、空気(酸素)に触れると時間とともに物理・化学的性質が変わり、薬効も低下したり無くなってしまうものがあります。これが温泉水の老化現象です。効果を100%期待するには、湧出直後の新鮮な「かけ流し温泉」を利用するのが大原則です。 |
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| ・温泉入浴は体にどんな効果があるか 1.浮力と水中運動 全身浴では浮力によって体重は空気中の9分の1ほどに軽くなり、運動しやすくなります。水の体を支える作用は神経障害や筋力が弱くて空気中で立つことができない人でも、わずかな支えで立つことができ、リハビリテーションの運動療法に利用されます。水中で速く体を動かすと、多くのエネルギーが要るので肥満や糖尿病の運動療法に最適です。水中での歩行運動は高齢者の転倒防止のトレーニングとなり、筋の萎えを防ぎます。 2.静水圧 水中では水深が1m増すごとに76mmHg(0.1気圧)ずつのずつの水圧が体の表面に加わります。このくらいの水圧でも、柔らかい腹部の内臓は上に押されて胸を圧迫し、息苦しくなります。手足や腹部の静脈内血液は上部の心臓に集まって一時的に心臓が拡張し負担がかかります。ですから高血圧や心不全があって心臓に負担を掛けたくない病気をもっている人は、心臓への静脈血の移動が少ないみずおちあたりまで浸たる半身浴が勧められます(図1)。また、西洋式の浅い浴槽で、心臓の位置が水面近くなるように手足を伸ばした寝浴でも心臓に負担をかけません。特に温泉の成分を体のできるだけ広い皮膚表面に接触させるためにも寝浴が最適です。 3.水温-温浴の効果- 体温より少し高めの水温(37℃以上)での温浴では、皮膚など末梢部の血管が拡張して血液が増し、代謝が亢進し、筋や関節組織が柔らかくなり、鎮痛効果や催眠作用などが出てきます。これらはリハビリで温熱療法として応用されます。 4.高温浴(42℃以上)は危険 私たちは暑い温泉が好きですが、湯温42℃以上の高温浴では、発汗が多くて血液の水分が減少して粘度が増加します。また、交感神経が興奮して血圧が上がり、血液が凝固しやすくなります。そのため、入浴後に脳梗塞、心筋梗塞などがおこる可能性が高くなります。高血圧症、血栓性疾患、動脈硬化症やこれらの予備軍である高齢者では高温浴は避けましょう。とくに高齢者では、皮膚の熱刺激への感受性が低下してきて、かなり熱い湯でもそれほど熱いと感じなくなるので、注意が必要です。 血液の水分減少は、入浴中や浴後に、コップ1〜2杯分の水分とミネラルの補給が大切です。とくにスポーツドリンクやオレンジのようなビタミンも豊富な新鮮な果物のジュースが勧められます。 5.温泉浴の血圧への影響 全身入浴では、はじめに水圧で血圧が一時的に上昇します。お湯が熱いほど上昇し、42℃以上の高温浴では入浴直後に、収縮期血圧で30〜40mmHgもあがることがあります。その後安定するようになりますが、出浴時には静水圧が急になくなるので血圧もすぐに低下します。ですから入浴するときも湯から出る時もゆっくりと這うように出入りするのがコツです。脱衣室などの室温が低ければ、血圧は再び強く上昇します(図2)。ぬるめの湯温(38〜40℃)では入浴中の血圧はむしろ低下し、持続時間も長引きます。 |
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| ・効果的な温泉浴の方法 1.水温、回数、時間 入浴時間は、42℃前後の高温浴では出入りする時間を含めて10分以内ぐらいを目安にします。ぬるめの温浴では長くとも30分くらいまでとして、出浴後は少なくとも30分は安静を保ちます。せっかく温泉に来たからといって、頻繁に入浴することはよくありません。最初の数日間は1日に1〜2回とし、だんだんと3〜4回くらいまでふやしていきます。 2.温泉浴後の「あがり湯」はしない 温泉の成分はお風呂からでた後もしばらくの間(数時間)は皮膚から吸収されます。そこで、お風呂から出る時は皮膚表面についている温泉成分を「あがり湯」として真湯などで洗い流さないようにします。しかし、硫黄泉、酸性泉、硫化水素泉などでは、人によっては「湯ただれ」を起こすこともあるので、浴後に真湯を十分かけます。最近多くなった循環・ろ過、塩素消毒などで再利用の温泉を用いた浴槽に入浴する場合では、細菌感染のおそれがあり、「あがり湯」で十分に皮膚を洗い流すようにします。 3.温泉浴後の「あがり湯」はしない 入浴前から下肢、腹部の順に湯を何回もかけて皮膚の血管を十分に広げておきます。湯に入る時や出る時は静水圧や温度の急激な変化により、心・循環系に強い影響を防ぐため、いきなり浴槽に飛び込んだり、急に立ち上がったりしないことです。湯から出たら20分〜30分は横になって安静を保ちます。 4.温泉浴と食事・運動 高温浴では多量の発汗で、水分や塩分が失われ、胃液の分泌や胃の運動が抑えられます。食事の直前や直後の高温浴は避けましょう。食後30分は安静にした後で入浴します。 激しい運動や労働の直後は、血液は筋肉や末梢皮膚領域に多く移動するようになります。入浴でさらにこの傾向が増すので、心臓の負担が増加し、脳貧血も起こしやすくなります。運動したら30分すら1時間は休憩してから入浴します。 5.温泉浴とアルコール飲料 大量の飲酒では、末梢血管が入浴でさらに強まって逆効果となります。アルコールを飲んだら完全に酔いが醒めてから入浴します。 ・温泉療法 温泉療法とは、数日から数週間温泉地に滞在して、温泉浴のほか、温泉プールでの水中運動や屋外でのスポーツなどの運動療法、食事療法など組み合わせた療法を行うことです。 ストレスの多い日常生活から離れ、静かで空気のきれいな温泉地に転地するので、温泉地周囲の森や海の地形や気候気候環境によって、心身がストレス状態から解放されるという心理効果も無視できません。温泉療法に詳しい医師の処方やアドバイスを受けることができればいうことはありません。現在、わが国には温泉療法医は1,000人くらいいます。欧州では、温泉療法が専門医の処方で行われると3週間は健康保険が適用されます。 ・温泉療法の適応症と禁忌症 温泉療法は、薬物療法と手術療法などで代表される現代的療法と異なり、即効性はありませんが、副作用はなく、安全でしかも繰り返すことができます。 適応症としては、薬物療法の対象とならない関節や筋の痛み、退行変性疾患(変形性関節症など)、ストレスによる疾患などです。最近では、生活習慣病の予防や積極的な健康づくりといった予防医学的な面での活用が強調され、従来の現代医療と東洋医学や代替療法などを同時に出来る統合医療の場として温泉療法が最適であると注目されています。温泉を活用して、老人医療費が抑制されたという報告があり、お年寄りの休養、運動不足の解消、健康チェック、転倒防止への温泉プールでの水中運動など介護予防の場として利用されるようになりました(図3)。医療としてその有効性がはっきりしているものを表2で示しました。 温泉療法が向かない禁忌症は、@急性疾患で熱があったり、症状が進行中の場合、A重症の高血圧症、心臓病、肝、腎障害、B新鮮な心筋梗塞、C出血性疾患や高度の貧血、D妊娠の初期と末期、などです。 ![]() |
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